2025年6月1日日曜日

「2025夏のセミナー」に向けて

この間、2025年が始まったと思ったら5月ももう終わり。一年の半分過ぎ去ったと思うと呆然としますが、紫陽花は今年一層美しく見えます。

今年、世界はアメリカ大統領が「相互関税」や「大学への制裁」をやり出したおかげで大混乱しました。製造業衰退で困窮した大衆が支持しているようですが、残念ながら「関税」や「大学制裁」で、この問題の解決はできないと思われます。なぜなら、アメリカの製造業衰退は資本主義経済の必然的発展だからです。

製造業が発展すると、賃金とともに製品価格も高くなるので、競争力がなくなります。だから、製造業は賃金の安い外国に出て、そこで生産する。国内では経営や開発が主になり、そのスキルがある人、つまり学歴が高く専門技能がある人々への需要が高くなる。一方で、海外でもできる作業の労働者には仕事がなくなる。残るのは、生活の小さな用事をその場その場で解決する「エッセンシャルワーカー」ばかり。

この「発展」のプロセスを政治で変えるわけにはいかない。一時的には、影響を与えたようでも、今の資本主義を続ける限り、この傾向は止まらないからです。トランプも、今のところ、ことごとく失敗し、ウォール街ではすでにTACO=Trump Always Chickens Out(トランプはいつも怖じ気づく).という言葉が流行しているとか。

経済法則を無視しているなら、この結果は当然です。ウクライナ紛争も「三日で解決できる」と言いながら、平和を実現できない。無理なことは、いくら強権をかざしても出来ないのです。

そういえば、アメリカは過去にも同様な失敗をしています。「禁酒法」では、酒の販売を禁止して、社会に平和と繁栄をもたらそうとした。でも反対に、法律を破っても利益を上げようとするマフィアたちが大もうけし、彼らの抗争が激化して、社会の安全も危険にさらされました。

社会を変えるには、原因に働きかけねばならないのですが、その手間を省いて強権でコントロールしようとすると事態は悪化する。社会を変えるには、社会の原理を理解し、そのメカニズムに沿って辛抱強く働きかけていかねばなりません。現在の米国大統領は、それを理解することができないようですが、こういう蛮勇にしか、もはや期待できなくなるほど、アメリカ社会は絶望的なのかもしれません。

しかし、どんな権力者も無力であるという事態は、我々にとって逆に朗報かも知れません。権力を持たなくても出来ることがあるからです。まず、すべきは社会のメカニズムを理解すること。次に、何処に働きかけるべきか、を判断すること。最後に辛抱強くやり続けること。

法曹になる、というのも、その世界理解のための第一歩かもしれません。社会のあり方を知って、どこに働きかければ、どういう結果が出て来るか予想する能力を持って、そこに働きかける。トランプもその支持者たる大衆も、メカニズムが分からないのに、やたらと命令・脅迫でことを動かそうとする。しかし、社会が動くとは、自分がすべてに目を光らしてなくても、他の人が進んでやるようなメカニズムを作ることです。

法律というと、裁判とか判決とかを考える人が多いと思いますが、私が、かつて医療裁判の事例で習ったのは、裁判に持ち込まれる時点で、医療側患者側の当事者双方にとって「敗北」だということでした。

無益な「対決」にならないようにするのが、法律の専門家としての重要な役割なのだそうです。むやみに「対決」を否定しないが、たんなる「対決」に終わらないように知恵を絞る。そのためには、過去の「対決」のメカニズムを深く理解し、それを現実に起こる事例の参考にして考え抜くことでしょう。

今年もボカボでは、法科大学院小論文 夏のセミナーが行われます。この講義と演習が、上記のような意味で、参加者の社会と秩序に対する考えとセンスを深める契機になれば、開催者とすれば、これに過ぎる仕合わせはありません。夏の暑い時期ですが、一緒に頑張っていきましょう!




 

0 件のコメント:

コメントを投稿