2011年3月13日日曜日

非常時の言葉

地震が起きてから、TVとPCの前に釘付けになった。私の故郷は仙台だから被災地のど真ん中。幸いにして、メールで早くに連絡が取れて、親戚が無事であることが分かった。内陸部だったので、津波の被害に遭わなかったのが原因だろう。沿岸の方々は本当にお気の毒だ。

一方、都内の連絡はツイッターが使えたので、ITネットワークの力を実感した。ただし、ツイッターは活発だったが、発信は東京が主で、肝腎の被害を受けた岩手・宮城の海岸部からの発信はほとんどない。あったとしても、せいぜい盛岡と仙台などの大都市。都市と地方の間の情報格差は認めざるを得ない。

だからかもしれない、津波の報道が一服した後から、話題は原発問題の方に集中した。放射能は目に見えるものではない。一般人は、専門家の情報・コメントに頼らざるを得ない。しかし、その言葉を理解するのは容易ではない。だから、情報の提供の仕方によっては、コメントがコメントを呼んで、妙な方向に転がりかねない。情報も錯綜して不十分であることが多いから、判断できることも限られる。コメントを述べる人は慎重にならざるを得ない。

不安に駆られて「何かを隠している」と追求して言いつのったたり、情報を全部開示せよと言ったりすれば、済むことではない。コメントを聞く人も、そのバランスを感じ取るべきなのだ。それなのに、ツイッターで「避難地域が50kmに拡がったら東京を逃げ出さなきゃ」などと書くなどは、「言論の自由」として正当化できない。

その意味で、今回の場合、傑出していたのは、理系の研究者たちの言葉だったと思う。たとえば、U-Streamで流された原子炉設計に関わった後藤氏のコメント。原発反対団体のサポートでは番組になったのだが、海水注入という政府の決定に対して「やむを得ない最後の手段であり、現在、その是非をとやかく言えない」という公平・客観的な態度を貫いた。海水注入をするにもリスクがあるが、しなくてもリスクがある。よくやるように、両面の主張を立てるという機械的方法ではなく、データと理論という客観的な方法に基づいて、我々をリスクに直面させたのである。リアリティある発言だったと思う。

それに対して、残念だったのは、後藤氏のコメントをバックアップした市民団体のコメントおよびマスコミの記者の質問。前者は「政府の対応に怒りを覚える」「NHKのでたらめコメント」などという発言を繰り返した。たしかに、原発反対団体なので当然かもしれないが、同時に開かれた枝野官房長官の会見でも、情報は後藤氏と大差なかった。その意味で、彼らの非難は行き過ぎだろう。むしろ、政府の対応は、確認できる情報に基づき、現在言えることをできるだけ分かりやすい言葉で言おうとしており、よくやっていると思う。

他方、マスコミの記者たちは「政府の対応の評価は?」などと発言する。この場合大事なのは事実の確認であり、責任の追及ではない。事実に基づかなければ、正確な判断もできない。こんな時でも、人間関係や組織に還元する傾向は困ったものだ。誰かのせいにしてaccuseを煽っても、現実に起こっている問題が解決するわけではない。現在やるべきことは、問題を何とかhandleすることであり、内部のあら探しをすることではない。問題化の方向が根本的に間違っているのだ。

一般人がツイッターなどで容易に発信できる状況だからこそ、こういう間違いをしないようにすべきだと思う。自分の手に余ること、沈黙すべきところは沈黙すべきだし、逆にロジックがおかしいところは徹底的に疑問を持つ。リツイートなどでガセ情報が出回ったようだけど、そういう態度が徹底していないから怪しいツイートに反応してしまう。ステレオタイプにのってふわふわするのは止めた方がよい。

今度の災害を悲観的に捉えることはない。『災害ユートピア』という本では、大規模災害の時には、普通の人々が特別な力を出し、理想的といっても良いほど、互助の共同体が実現すると述べている。人々は明るく悲惨な状況に対処し、その中で新しい人間関係、社会を実現するのだと言う。むしろ、そういうユートピアを混乱させるのは、強制的な力を使っても秩序を保とうとして権力をふるう人々だと言う。今回、そういう妄想的権力に絡め取られた人々がいないし、存在させてもならないと思う。そういう見分けの力の向上が、今度の災害で絶対にあるはずだと思う。

その意味で、地震の危機の不安に駆られるより、各自が自分の担当する場所でできることをやった方がよい。ボカボでも、3月20日に「公共の哲学-J.レイチェルズを読む」を開催するつもりでしたが、いろいろな事情で4月3日に延期せざるを得ませんでした。このような危機の中でこそ、「公平」とは何か、「善」とは何か、「正義」とは何か、具体的なイメージとともに理解できると思うのに、残念な感じがします。しかし、4月3日には開催いたしますので、ぜひご期待ください。

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